新潟口腔ケア研究会

新潟口腔ケア研究会
第16回 新潟口腔ケア研究会 報告
 令和3年度の第16回新潟口腔ケア研究会も、新型コロナウイルス(COVID-19)感染がいまだ収束を見ず、昨年と同様2021年10月8〜22日にWEB研修会としてオンデマンド配信での開催となりました。コロナ禍により集合型研修会の機会は失われておりますが、一方で、各所で開催されるWEB研修会の需要は伸びており、本年度は約170名とより多くの皆様にご視聴いただきました。また、オンデマンド配信で実践口腔ケアセミナーを再開し、ほとんどの参加者の皆様にご参加いただきました。感謝申し上げます。
 本年は、当番世話人の日本歯科大学新潟病院口腔外科の戸谷収二先生のもと、「口腔ケア最前線〜口腔乾燥症を中心に〜」をテーマといたしました。新型コロナウイルス(COVID-19)は唾液腺、舌、口腔粘膜にみられ唾液からも検出されるため、感染リスク低減に口腔ケアは重要ですが、口腔ケアを行うにあたって口腔乾燥の対応は切り離せないと考えております。特別講演として、日本歯科大学新潟病院薬剤科科長の竹野敏彦先生より「口腔乾燥に関連する薬剤と口腔ケア対応」と題し、具体的な口腔乾燥症や口腔ケアに使用する製剤やポリファーマシーについて私見を踏まえ、ご講演頂きました。また、教育講演は、国際医療福祉大学病院歯科口腔外科教授の岩渕博史先生より「なぜ、高血圧を治療するか?ー自覚症状のない口腔乾燥症は治療する必要がないのか!ー口腔乾燥症の概念と為害作用について」と題し、口腔乾燥症と口腔ケアの最新情報についてご講演頂きました。さらに、「実践口腔ケアセミナー」として、日本歯科大学新潟病院口腔ケア機能管理センターの歯科衛生士、藤田浩美先生より口腔ケアの評価と計画立案から器具の使い方の解説をご講演頂きました。
抄録(竹野敏彦)
 口腔ケアという言葉に含まれる要素として、口腔内の手技・方法の内容を多く含むように思われます。今回は、口腔ケアで使用される口腔保湿製剤に的を絞り説明をいたします。
 口腔保湿製剤は医療機関のみならずドラッグストアでもその取扱いがあります。あまり気にされたことはないかと思いますが、関連する法令があり規制があります。規制区分により、記載される効能・効果に関連する表記の違いを説明いたします。また、製剤に配合されている成分はどのような基準で配合されているのかなど、あまり触れられることがない視点から口腔保湿剤を見てみます。
また、高齢者社会となり歯科を受診される高齢者も多くなっています。その高齢者で問題となっているのが「ポリファーマシー」です。ポリファーマシーとはどういうことなのか、何が問題なのか。など基本的なお話をさせていただきます。そして、どのような薬剤が口腔機能に影響を与えるのか、具体的な薬剤・処方例を提示し説明をいたします。受診された患者さんの問診から「もしかしたら?」と日常の業務の中で疑義が生じるヒントを提示したいと思います。
抄録(岩渕博史)
 口腔乾燥症とは、自覚的な口腔乾燥感や口腔粘膜の乾燥所見などの他覚所見または唾液の量的・質的変化を認める状態であるとされ、口腔内の唾液量が減少したタイプと口腔乾燥感の自覚症状を有するが唾液量の減少を認めないタイプがある。口腔内の唾液量が減少する原因には、唾液分泌量が減少するタイプと唾液分泌量は正常であるが、口腔の保湿力が低下するタイプがある。唾液分泌量の減少には、体液量の減少と唾液分泌機能の低下によるものがある。さらに、唾液分泌機能の低下には、何らかの原因により唾液腺実質が障害を受け、分泌機能が低下したタイプと唾液腺の分泌機能は正常であるが、唾液分泌刺激が低下したタイプがある。唾液分泌機能低下の原因には加齢、シェーグレン症候群や放射線照射などがある。唾液分泌刺激の低下では薬の副作用が最も多く、精神疾患やストレスなども生じる。口腔の保湿力低下の主な原因は、開口による口腔内の唾液蒸発量の亢進である。また、口腔乾燥感を有するが唾液量の減少を認めないタイプでは精神疾患などが疑われているがよくわかっていない。唾液は、口腔機能やその保護には無くてはならないものであるが、それ以外にも口腔周囲器官や臓器を感染などから保護していることが判ってきている。口腔乾燥症はう蝕発症への関与のみならず、食塊形成能や潤滑作用を低下させることから食物の咽頭・食道通過を障害するなど摂食・嚥下機能にも関与している。さらに、味覚異常、舌の疼痛、口腔カンジダ症の発症にも関与しており、唾液はほんどの口腔疾患の発症や増悪に関与している可能性がある。また、口腔は全身の一部であり、呼吸器や消化管の入り口であることから口腔乾燥症は、全身疾患や他臓器疾患に影響を及ぼす。その一例としては逆流性食道炎患者では唾液分泌量や唾液中の上皮増殖因子の分泌量が健常者に比べ低下していることが報告されている。また、口腔乾燥症患者では健常者に比べ、かぜ症候群とインフルエンザを合わせた罹患率が約2倍高いことが判っている。一方、口腔乾燥症は様々な全身性疾患や精神的ストレス、内服薬の副作用などにより生じる。このことは、口腔乾燥症の早期診断とその原因の特定することが口腔乾燥症を生じさせる疾病の早期発見につながることを意味する。このように唾液は全身の健康維持に重要な働きをしており、口腔乾燥症への罹患は全身の機能低下のサインでもある。また、口腔乾燥症には、唾液量の減少を生じているにも関わらず、自他覚症状の乏しいまたは自覚症状を訴えられない患者も少なからず存在する。このよう患者に対してもわれわれ医療関係者が口腔乾燥症を早期に診断することが、その為害作用を減少させるために重要であると思われる。



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